小さな奇跡 -honowa 12の物語-
賀茂神社(豊橋市)
生きていると「小さな奇跡」があるんです。
穏やかに、賀茂神社の宮司である田畑さんは教えてくださいました。
神社は元々、人々の生活に根付いた存在だった。
さりげない平凡な毎日の中、今も昔も人々は
神様のお住まいであるその空間に訪れる。
祭礼や儀式の前には必ず「祈り」があり、
そこには「感謝」がある。
自分の住む場所の目と鼻の先に「鎮守の森」があり
ここに住めることの奇跡と、先祖への感謝を伝えに人々は訪れる。
賀茂神社は公道からわずかに一歩踏み入れただけの場所にあるが
木漏れ日や、木の葉を揺らす風の音を感じる、空気が変わる場所だ。
自然の在り方のままに神様に触れることで
明日への元気や活力をいただける小さな奇跡が生まれる。
そこに大それた伝説や、霊力は必要でなく
家に帰ってから、ふと思い出す心の風景のひとつとして
ただただ静かに、しかし確実に人々の心に宿る奇跡。
夫婦ふたりの輪が、やがて家族の輪になる
そして、その輪は徐々に広がっていく。
それはきっと奇跡なんだと思う。
高齢となった宮司や協力者によって整備されている森は広く、
大変な作業を伴っている。
しかし、何気ない日々に訪れる人々のために
黙々と少しずつ、森を整えている。
「子どもたちを見ていると自然と笑顔になれるんです。」
宮司の田畑さんは穏やかに語られた。
ちょうどお話を聞いている部屋の窓から、
小さなお子さんを抱いた母親が参拝をしているのが見えた。
お祭りのような賑やかな時ではない日常にも
気がつけば神社はそばにあり、祈りと感謝を捧げる場所として
存続しようとしている。